「ねたみは人を動かす」
(朝日新聞 9月3日 「be」読み解く)
仕事ひとすじ30年。そろそろサラリーマン
生活も終わりがみえてくる。
この10年間、商品開発の仕事をしてきた。
経験とデータ。経験知を集結させて、実用化
されるものと信じこんでいた。
ところが、同僚で血気盛んな30代の○○という
男がそれを覆した。靴下のゴムはキツイと嫌な
ので、ゆるめに。そして、半分脱いだオジサン
スタイルでも、そこそこイケルだらりとルーズな
靴下を、というのである。
オジサン向けの靴下といえば、黒・紺・白。
地味で無難そうな色ばかり考えていた。
○○は「××さん、古いっすねー。オジサンだって
ぱあっと明るい色を好む人もいますよ。不景気
なんだから靴下の色ぐらい景気よく!」
頼りはデータ。ではなく、勘だとか。
ノーテンキなヤツだ。どうせ無理だろうと思って
いたら、あ~ら、どうしたことか。緑と赤のシマシマ
の派手なルーズソックス(○○作)が実用化される
ことになってしまった。××、あえなく落選。
オレが10年来溜めてきた経験知はいったい
何だったんだろう。この悔しさは耐えられん。
よーし、次こそ見返してやるぞ。早くも嫉妬心に
燃える。
事業所で一番早く出社する。仕事をしながら
横目で○○の仕事ぶりをチェック。昼ご飯は15分
ですませ、夜は一番遅く帰る。上司との飲み会に
は必ず出て、○○の仕事の穴を触れまわる。
そんな生活がたたったんだろうか。××はある日
倒れて入院するはめになった。原因は過労・飲みすぎ。
看護師さんからは、
「××さん、もう歳を考えなさい。」
と叱られ、
年頃の娘からは
「私たちより靴下が大事なんだもんねー。」
とイヤミの一言。
誰もかわいそうなんていってはくれなかった。
直感を信じた○○を素直にすごいといえれば
よかったのに。経験やデータでわかることだけ
じゃない。
人を貶めようとすると、かならず自分に帰って
くる。イタイ授業料だった。自分の歳を自覚するのは
難しい。
井上 智晴












